イワーノフ

若くして(といっても35とかだが)、それまで熱を入れて取り組んでいた仕事への敗れや(当時としては先進的な思想のもとでの)ユダヤ人女性との結婚生活が上手くいかなかったことなどから虚無感に骨の髄まで食い荒らされた主人公の転落の話。
時代を受けて全体に流れる強烈な停滞感(皆ひどく「退屈」しているが、打破できない)、何か目に見えぬ遮りでもあるかのように困難な登場人物間の意思疎通(主人公や、あけすけな俗悪さを隠そうともしないボールキン、単細胞的なリヴォーフなどに留まらず、一見(ありがちな役割のように)博愛的に見えるアンナやサーニャの行為も、実際は相手を見ておらず自己完結に近い)など、実に絶望的。
全体的にはイワーノフの弁護の難しいどうしようもなさとか、最後の身も蓋もない感じとかのせいか、やや(これまで読んだ他のチェーホフの作品に比べて)単調な感じを受けた。
どうでも良いが、道化役の一人の伯爵の名前が「シャベーリスキイ」だったり、金持ちの寡婦の名前が「ババーキナ」だったりするのは、すごい偶然というか笑わずにいられない。