2022年の思い出
依然終息は見えない疫病、戦の勃発、それに伴うエネルギー高騰など、(あたかも歴史の教科書での節目を見るが如く)世相的には暗い時代の色が強まりを見せる1年だった2022年だが、自分にとっての2022年を一言で言うならば、”The Way To A New Beginning”であった*1。
とはいえ、言葉の響きのような明るい話は全くなく、環境の転換やそのための試行に悪戦苦闘しつつ、結局何かしら明確な成果には未だ辿り着かず、という意味で課題の多い非常に困難な1年だった。
日々の仕事を除けば、生活の構成要素はほぼ昨年と変わらないので、同じ形式で要約する。
大学院関連(その後)
出だしから何だが、今年の取り組みは昨年に輪をかけて希薄*2であり反省点が多い。劣悪な環境を本当にどうにかする必要がある。特に新規な成果に乏しく、後述する結果も過去の資産によるものだったので、正直かなり忸怩たるものがある。
一方で発表済の結果については過分な反応があったのはラッキーなことであった。今後ないと思うので記念に書いておくと、何かやって景品を貰う的な経験は学業関係だと小学生の頃以来*3なので流石に驚きの方が強かったが、有り難いことであった*4。ただ、大学のプレス(のサムネ)ではなぜか写真が上下逆になって表示される、というオチがつくが*5。
一方で超正直に言えば一番嬉しかったのは引用がついたことだったり。いや全部身内ですし、0でなくなっただけですが。特に指導教官の直近のレビューで文献が参照されていたのは嬉しかった。過去のレビューでは文字通り自分以外の学生の仕事はほぼ隈なく参照されていたことから、(自分で自分の結果の程度はわかっているにせよ)情けなかったものだったが、とりあえず後ろめたさの一つは解消された。
全体通じて、先生に話しただけで解決に至らずまだ積み残されている話があるので、院生時代の話にけりをつけるという意味ではこれだけは何とかしたいところだが。
将棋関連
昨年に続いて観る将やっているだけなので大した話はなく。棋士のレーティングサイトを眺めるのが趣味なので、本当は時間が無限にあれば、セイバーメトリクスじゃないが将棋でオープンになっているデータの理解を深めることをやりたい。
大したネタでもないので一つだけ書く。
ここ1年ぐらいでベスト32(決勝トーナメントレベルであり、真の意味で挑戦者を競るレベルの閾値)のレベルが1700→1710ぐらいにわずかにシフトしているように見える。それより前は驚くほど定常的で1700前後だったのだが、どうも微妙にシフトした状態が継続しているようである。この差が有意なものなのかどうかに興味がある。意味がある問いなのかはよくわからないが(し、どうやって検討するのが統計的には妥当なのか、から勉強しないといけない)。
しかし、この「レーティングのデータ分析、統計学」、的な話をしっかり勉強しようと思ったら、どういう本を見るのが良いのだろうか?
一応、普通の振り返りも書いておくと、もう藤井五冠が圧倒的に強すぎて嫌になるレベルですね。番勝負で勝つには3番以上勝たないといけないルールだと、他の棋士がタイトル奪取する姿が想像できないので、この壁に挑戦者がぶつかっていき続けるだけでも敬意を持たざるを得ない。というか、永瀬、豊島、広瀬と素人が見ているだけでも凄すぎて泣きたくなるようなハイレベルの準備をして、その結果1番入れるのがやっと、2番入ったら称賛物、という結果である現状をどう考えるべきなのか。「将棋は最後に羽生が勝つゲーム」の時代よりも差を感じる。
人間同士の極限的な戦いを見る、というのも(個人的には)非常に良いのだが、一方で正直いえば挑戦者サイド(藤井と10歳以上差)の体力、精神力の消耗も激しそうでもあるし、興行的にルール検討や新棋戦設立のニーズが高まっていると思う。連盟側からは積極的には言えないような多少過激なルールでも良いので、どこか提案してはどうか。
後、羽生九段の王将戦6戦全勝はこの地獄リーグにあっては一秒たりとも想像できない結果で、感動した。A級から降級して藤井五冠とすれ違ったときにもう番勝負はおろか、年1回対局できるかどうかの世界か、と思っていたがやはり持って生まれたものが別格すぎる。
読んだ本
読みさしの本は含めない*6。今年は業務の奴隷だったのと、後述する通り空き時間の多くを映画に割いたのでろくに本を読んでいない。イベントを入れて、その予習をする的なイベントドリブンな感じだった。
特に良かった枠
ピクセル百景
これは超良かった!強くおすすめ。もともと画像処理の手遊びの題材としてドット絵風に写真を加工しようとしたのだが、ただ粗視化しても全然イメージに遠い物にしかならず、何が違うのかを理解したく色々探していた所、現代のピクセルアートに関するさまざまな作家の作品を目の当たりにすることになって購入したもの。作り方がわかるわけではないが、ものすごく心惹かれる絵が大量に載っていて素晴らしい。
ベルイマンを読む
これも超良かった。
わたしたちが描いたアニメーション「平家物語」
これもアニメが歴史に残るレベルで素晴らしいものだった(泣き所ではない普通の場面ですら異常に美しくてボロボロ涙が出る)が、この本もウルトラ良かった。
良かった枠
妄想する頭、思考する手
広義の自己啓発書だが、その中ではよい。
自動車絶望工場
原価企画とトヨタのエンジニアたち
なぜ中学受験するのか?
ジョブ型雇用社会とはなにか
私の生きた証はどこにあるのか
かもめ・ワーニャ伯父さん
ドライブ・マイ・カーのため。
会話を哲学する
キャッチーでとっつきが良さそうなので読んだ。なんか本質に迫っている気がしないのだが、まあ読んでるあいだはふーん、みたいな感じで読めたので。
歴史学のトリセツ
書き方がゆるいのだが、知りたかったことの出だしの所が書いてある感じで良かった。
微妙枠
昨年の微妙枠と違って、まともなのでこの枠に入れるのは申し訳がないのだが、合わなかったものなど。
平家物語 犬王の巻
西瓜糖の日々
「ハッピーアワー」論
将棋記者が迫る棋士の勝負哲学
漫画
過去に読んだもの・作家の延長が大半で、新しい作品などをなかなか読めていない。
読みきった枠
ROCA
ありがちで申し訳ないが、今年のベスト級。
三日月よ、怪物と踊れ
ROCA以前であれば、他の追随を許さないダントツクラス。いつもこのレベルの出力を期待したいのだが。
ガールクラッシュ
一十系の完璧超人の主人公が、主人公的メンタリティのライバルに負かされて、さあどうする、という話。面白い。
アリスとシエラザード
手堅く面白い。
恋は光
まさか読む日が来るとは思わなんだが、相当なパンチ力。今年読んだ旧作のベスト級。
チェンソーマン
全く人に気軽に薦めたい部類のものではないし、いちいち映画の小ネタや話をしないと気がすまないのか、と文句を言いたくなるなど問題山積なのだが、読んでいる最中の(気分の悪さと)面白さは認めざるを得ない。
G戦場ヘヴンズドア
(理由は忘れたが)再読。葬式の描写とか、漫画家入選者軍団のうち、子供育てながらの人とかむしろこの辺の描写のほうが年を食えば食うほどダメージが入る。
しかしメインの大人はろくでなし目白押しだが、サブの大人が本当に頭の下がるような人ばかりである。この数分の一は大人になりたかったものだ。
模型の街
百木田家の古書暮らし
ご当地枠。あっちゃこっちゃにポスターが貼ってあるのだが、一方で中身は強烈に面白いか、というと…
面白いが時間が取れず止まっている枠
テレプシコーラ
1巻だけ読んで厳しくて止めた枠
・SPY×FAMILY
映画新作
特に良かった枠
トップガン・マーヴェリック
ありがちで申し訳ないが、今年の新作ベストでは。
C'mon C'mon
これも、利発な子供に弱い自分にはかなり高ポイントであった。
良かった枠
ドライブ・マイ・カー
色々気に入らないところはあるのだが、劇のシーンはじめ強い印象を残す場面があり。ただどこまで行ってもおじさん向けのそしりは免れない。
The Batman
パターソンブルースの病的度合いが好印象。またバットマンが紛れもないフリーキーな存在と認識できる良い話。殴って相手を倒すときもそうだが、銃で撃たれて死なないのは怖すぎる。一方で終盤は過去作に寄せすぎ?ややダレるので、もう少しタイトにしてほしかった。
偶然と想像
最初2作は得意のおじさん向け、という感じで気に入らないのだが、最後「もう一度」が超強力。「上に行く」のシーンで10億点。3作目だけ見せられたら余裕で本年ベストだったと思う。後この監督は、この作品に限ったことではないが、もう少し音楽に気合を入れたほうが良い。
犬王
絵と音楽の力が実にすごい。怪作。ただ、本当に本当に平家物語じゃなくちゃだめだったの、感が拭えない気もするのだが。
ドンバス
バビ・ヤール
まあきついが見てよかった。
微妙枠
ハッチング
女神の継承
今年ついにホラー映画に手を出したのだが、ぐちゃぐちゃ系とか気持ち悪い系は自分は無理だということを認識しただけに終わった。
シン・ウルトラマン
ものすごい良いところ(怪獣ファン的に。冒頭のウルトラQの大盤振る舞いと、着ぐるみの使いまわし・改造の系譜学ネタを早口でまくしたてる早見あかりだけで10億点)と、ものすごい微妙な所(主に人間が出てくる所)のモザイクぶりが凄まじく、非常に評価が悩ましい。ウルトラマンと怪獣が戦っているところは概ね満足(最終戦は微妙だが)だし、山本耕史のメフィラス星人は大発明だが、原作での科特隊のさまざまな格好良い機械群が結局いい感じに入れ込めきれなかったのと、最後物理学の宣伝みたいな感じになってるのが気に入らなかったのが減点ポイント。
フレンチ・ディスパッチ
シャレオツで良いんだが、趣味的には合わず。
すずめの戸締まり
旧作も見たことがないので、文字通りの予習ゼロで知人と行った。なんか映画を見に来た人へのホスピタリティを感じて、まあ見ている最中はイージーモードでも楽しい気もするのだが、いざ一人になって振り返ってみると、という感じではある。
ベルファスト
贔屓目かもだが、これをジョジョ・ラビットと比較するのは手合違いで無理筋だろう。
それはともかく、ここで良きものとして書かれるようなものの裏返したる閉塞感、そこからの脱出、というテーマの映画に弱い自分としては、まあ全然乗れなかった。
映画旧作
今年の最大の変化といっても過言でもないのは、映画旧作を見る頻度を増やしたこと。背景としては、これまで気が向いたときに行くぐらいだったのが、6月に「叫びとささやき」を見て「大地震」がごときショックを受けて、もっと真剣に時の洗礼を受けた映画を見るべきだと思ったことがある。
しかし、当然ながら学生でもない限りなかなか映画館には通い詰めとは行かず、フラストレーションが溜まる日々に。来年はもう少しなんとかしたい。以下は今年見たもののリスト。
特に良かった枠
ゴッドファーザー
上記のようなことを書いておいて初っ端これだと成長ゼロ感がすごいが、見た順番なので。まあ何回見ても気づくところがある。ちゃんと見れていないということの裏返しだが。しかし本当に冒頭の結婚式の部分だけでも余裕でそのへんの映画より面白いのに、その後も犯罪的に面白いのだから始末に負えない。
ゴッドファーザーPt.2
映画館で観るとやはり超良い。タホ湖の美しさと対をなす真っ黒さで最高。
パリ・テキサス
話の大筋・根本的な生みの親>育ての親の感覚は必ずしも好きでないが、映画としてのレベルがすごい。有名なマジックミラーのシーンは言うに及ばず、子供の愛くるしさにはとにかく泣かされる。学校からの帰りで道路挟んで平行に歩くところとか良すぎて泣いてしまった。
一方で、父親が本質的にダメ人間で、子供を平気で危ないところにやったり大事にできないせいで全く共感はできず、その意味では適齢期ではなかったのかもしれない。
後スライド・ギターの音楽が最悪だと思っていたが、絶賛されている様子。
ハッピーアワー
もう遅い文学の魁だが、映画としての力はものすごい一方で、全然良い話ではないところが厳しい。後、頭でっかちの自分はアンチ「身体性」なので、そういう所でも気に入らないところはあったり。
叫びとささやき
鏡の中にある如く
沈黙
ペルソナ
魔術師
第七の封印
処女の泉
これらに触れてこずだったのは本当に勿体ないことをした。極限まで研ぎ澄まされた画面、寓話的でどこか奇妙な物語、それらが否応なしに露にする本質、役者の強力な演技と凡そ非の打ち所がない。鏡の〜と沈黙は、シネマリンまで見に行ってしまった。1月の池袋も是が非でも見たい。
野火
恥ずかしながら、今年ついに見た。本当にきついが、見るべきものだったと感じる。
ノスタルジア
最初見たときは狂人の1+1=1と最期の印象しかなかったのだが、やはり絵の独特な美しさが尾を引く。
奇蹟
ドライヤーは今年「裁かるるジャンヌ」とこれしか見れなかったがこれも超すごい、言葉を失う。どうということのない話のなかでも全く退屈しない密度の濃さ。
マッドマックス 怒りのデスロード
良いものは何度見ても良い。
良かった枠
ゴッドファーザーPt.3
タイトルを変えておけばよかったものを、という感想につきるというか。チープだが、大筋としてはこれはこれで。全体通じてアメリカンで安っぽいのでメアリー役がことさらにだめ、というわけではない気がする。ただ、ヴィンセントが基本的にチンピラ感しかないので、こりゃだめだと思いながら見るのが辛いし過去のアナロジーが辛い。
一方でコルレオーネ村で関係再構築に努めるところとかは嫌いではない。爆死は流石になかったが。が、歌つき愛のテーマがもうだめ。
ヘルムート・バーガーが出ていたことにラストまで全く気づかなかった。
雨月物語
とにかく絵と動きの綺麗さが異常。
裁かるるジャンヌ
不気味なものの肌に触れる
レインマン
ショーシャンクの空に
野性の少年
家族の肖像
加齢とともに加点される作品。
レイジング・ブル
かなり好みである。
微妙枠
パターソン
雰囲気は良いが大筋は微妙。最後の日本人とかしつこいにーちゃんとか。好みでない。
気狂いピエロ
男と女のいる舗道
シャレオツだがひたすらに合わない。
永遠に君を愛す
ディア・ハンター
期待しすぎたか。
グッドフェローズ
非常に迷ったが、期待しすぎた感はある。やはりストーリー重視の人間には合わなさがあった。ただジョー・ペシの触れるべからず感は超怖くてよかった。あとは劇場への裏口から入るところの長回しはすごい。音楽のセンスは合わなかったので特になし。
湖のランスロ
絵は良いのでかなり迷ったが。
たかが世界の終わり
粛清裁判
途中で寝てしまい。
音楽
今年はほぼほぼ見に行かず。仕事で精神的に参っていたところ、11月にライブ”un_mute”に行けたのが良かった。前日にやる気なく、「どうせ明日かからないんだろうけど、まあ好きなものを聞くかなー」とかいって聞いていた”Follow me up”のライブとか、ミツバチとかと被る曲から思いの外かかってかなり意表を突かれた。油断ならない。
東京国際フォーラムながら2Fの後ろだったのだが、客層がおっかない感じだった。
展覧会
今年はさほど行かず。上期は大英博物館北斎展と滑り込みでゲルハルト・リヒター展見に行った。11月上野に「岡本太郎展」行ったのと、後は西洋美術館の常設展を久方ぶりに見たぐらいだろうか。いずれも非常に良かった。写真が取れる展覧会が増えてきたのに時代を感じる。
西洋美術館の常設展では絵が追加されてたり、最近の元素分析(カルロ・ドルチの聖母の絵)の結果が出てたりアップデートもあって面白く見れた。
ゲーム
ほぼ全くできていない。タクティクスオウガもミンサガリマスターも、ポケモンSVも何も。
やったのは2つのみで、1月から2月にかけてポケモンアルセウス。これはかなり癒しになった。毎回オープンワールドのゲームで同じことばかり言っているが移動しているだけでも超楽しい。後、やはり殺伐アトモスフィアが感じられるところがポイントが高い。もともとポケモンは、そのへんの道路に屯しているトレーナーにせよ、チャンピオンを目指す主人公にせよ、ちょっとアウトロー感のある世界観だと思うので。一方で、ポケモンのデザインはもう少し可愛くても良かったが。
年度明け後はGWに遊んだインディーゲームのFlorenceのみ。これはとってもビビッドで良かった。元気が出る。
Florence - Annapurna Interactive
RTAinJapanは夏、冬ともちびちび横目で見て楽しんでいる。冬は残念なことに殆どまだ見られていないが、特にcupheadとドラクエモンスターズが良かった。
その他
昨年からの続きとしては、Nielsen-Chuang読みはそこそこ粘ったが、日本語版で言うところの1巻が読み終わるか...?ぐらいで一旦ペンディング。しかし、ゼミを通じて、独学の困難性を再認識したのが非常に大きな教訓だった。自分だけで勉強していたら間違いなくもっと早く頓挫した挙げ句、「酸っぱい葡萄」的な言い訳を考えていたと思われる。一方で、自分が直近量子計算そのものには関心が高くないことを理解できたのも良かった*7。
後ここでは積極的には詳細を書かないが、22年に実施したいくつかの試行を通じて、自分が想像よりも遥かに現在の居住等環境に過適合していることを認識してやや背筋が寒くなった。
無難な話でいえば、とりあえず車マストの環境に恐怖しか感じない*8のは、生活自由度を狭める側面が強く困ったものである。院生のどこかでアメリカにでも押しかけ女房的に滞在してショック療法をやるのが、有力解であったと思われる。
その他、結局何をどこまで諦められるか、的なことを再考する必要性を強く感じた。まさに加齢の影響という感じだが。