切り取れ、あの祈る手を

本を「読むこと」の意味(本は本質的に「読めない」もの)から始まって、その行為(読めない本を「読む」)のみによってもたらされる「革命」、特に宗教革命と中世解釈者革命について語った本。
非常に面白いのだが、いくつか疑問も残った。例えば2章のルターの宗教革命の方は「読むこと」が革命に直結した例だと思うのだが、それはおそらく「共通の神」というものが存在したために、極めて短期間でマクロな規模の革命が成就したと言えるわけで、一方3章のムハンマドの方は彼の代では規模的には明らかに革命が成功したとは言えない訳で、そこからの発展の様子にどう「読むこと」が絡むのかに触れなければ、「読むこと」による革命とはいえないのではないか、という気はした。実際ムハンマドが非常に女性性を重視していたことには本文中でもウェイトが置かれているわけで、そこからどう現在のようなそれとは一致しない状況に至ったか、という観点からも、初代の「読むこと」による革命(即成功したわけではなかった)からの推移を語ることは出来なかったのか、というのが気になった。

後ちょっと気にかかったのは、作者の言う「文学」がいかに生と密着してるか、みたいのを語るときは滅茶苦茶広い概念になるのに、しばしば急に極めて狭い(従来の)文学の話になっていること。要はその重要性を語るときには広い意味(例えば踊りとか迄含めた)を使ってるのに、最終的に「文学の不滅」みたいのを語る時想定されてるのが普通の「文学」のみになってるように見えるのがどうもな、という気がしたということ。

まあごちゃごちゃ書いたけど、独特の煽る系かつ熱い系の文章が気にならなければかなり面白い本だと思う。5章は正直蛇足な気もしたけど、1章の批評家、専門家への訣別の話を皮切りに、そこまでは本当にぐいぐい読めた本。自分が今年読んだ本の中で上位に入ると思う。