ルポ トランプ王国

これは大変良い本であった。なぜ「本音」であることが重要なのか、なぜ実業家であることを重視するのか、なぜ「反エスタブリッシュ」なのか、そしてなぜ(実際は必ずしもその実現性を信じていないにも関わらず)「変わる」ことを志向するのか、ということに対して、その一端を鮮やかに浮かび上がらせてくれる。

 

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
 

 

僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう

立ち読みして大半読んでしまったので。

感想としては、元となるコンセプトに対する本としてはかなりいまいち。はっきり言えば失敗。ただし、呼んできている人が凄いので、一部面白い。

まず題名とコンセプト(いわゆるすごい人でも、昔はそうでもなかった、失敗もたくさんあったという所もあったということを今の若者に知ってもらって、もっと刺激を受けて頑張ってもらう、的な)にマッチした講演+対談になっていない(ここではコンセプトの是非は問わないことにするとして)。

唯一山中先生はまだそういった目的に合わせた話になっているが、その後は別にそうでもない。まあその最たるものが羽生講演なわけだけど。後もっと言うと、対談において化学反応が生まれるというよりは、むしろある種のブレーキが働いており、対談形式が仇になっている。

で、唯一面白かったのが、最後の山極先生のゴリラとニホンザルの研究の話。本の当初の目的とははっきり言ってあまり関係ないのだけど、ここは非常に興味を惹かれる(一方で、ゴリラやニホンザルの生態を見て得られた所を人間に寄せて見る、という所はよく分からないが)。

 

 

 

 

2017.02.17

Tobias Brandesの訃報を聞く。自分の修論にもろに直結する仕事をやった人(だし、まだ比較的若いはず)なので流石にショックが大きい。

直接会ったのは清水研セミナーで話を聞いた一度のみだったが、その後も(これまた近い分野の仕事をして学位を取ったばかりの)お弟子さんがセミナーに来たり、その時に(自分の)話を聞いてもらう機会があったりだったのであった。

自分は物理側から離れてしまったので、その時点において、その後何か、と言う可能性は既に閉ざされていた(とかいうと何か可能性と言ったものがあり得たかのようだが、無論位置関係としては遠く一方的に仰ぎ見るといったものである)訳だけど、それでも強い空白感を感じる。

ダンジョン飯 4

地下5階にして赤竜登場、ということで早々と収束かと思いきや、まだ続くようで安心(一方で、今巻食べ物色は薄かったような)。

 

 

ぼくの地球を守って

先週の「白泉社kindle本全品50%セール」という恐ろしすぎる(財布にとってのブラックホール的な意味で)*1ものが発生した結果(の一つ)。最近のストレスフルな生活の反動で、毎晩2巻ほど読んで昨日漸く読了。長年の積み残しであり、また一つ思い残しが消化された。

本作、リアルタイムでの連載時にしてから一大ムーブメントを引き起こしたことでも有名だが、確かに滅茶苦茶「仕上がった」作品で引き込み力が凄まじい。正直十数年前に読んでいたら危うかった、と胸を撫で下ろす所もあり。

ではどこが際立った点なのか、という点について正直整理しきれていないのだが、一つはやはり、出て来るキャラクターの「立ち方」と非常に書き込まれた心理描写か。

出てくるメインキャラクター(精神的に非常にWet側で、かつ年齢もあってやや安定感を欠く感じ)で、そうした人たちの(前世という呪縛からの開放へ向かう)自己の確立というテーマを徹底的にうじうじやる(超クローズドな空間で、Wet気質でかつ性格に難がある人が集まってどろどろした話をやる)、という話で、個別の部分を見ると正直違和感が湧いたり、行動原理が理解できなかったり、と言う所はあったりするので、そこを許容できるかどうかはかなり人によるという印象はあるのだが(ただ、サイキック無双要素を入れ込んでみたり、途中で導入され、重要な位置を占めることに成る「キィ・ワード」集め要素、あるいは任侠ナイスガイおじさんが重要な位置づけで登場したり(一方でこの人の行動原理も摩訶不思議ではあるのだが)、とマンネリに陥らぬような試みはかなり意識的になされており、テンポは悪くないという印象)。

後まあもう一歩踏み込んで書くと、幼少期とかに受けた精神的な傷であるとか、いわゆる疎外的な状況など、どのようにしてそうしたものに折り合いをつけていくか、あるいは外部からのどのような働きかけで治癒されうるのかという点が非常に重要な位置づけになっていて、そうした所に関する記述については上手さがあるので、特定の人にとっては引き込まれやすさ(その他の借金を差し引いても)はあると思う。

読み終えて落ち着いた目で見ると、大きなシナリオレベルでも、最終的に亜梨子が輪に惹かれる理由が希薄だな、とか結構不思議な点はある(一方で、落とし所からの逆算的な考え方から言えばまあこれしかないだろう、というので潜在意識的には合意してしまうわけだが)のだが、それでも読ませてしまう所には圧倒的な語りの力を感じる。という訳で、前世的な話に拒否感のない人とか、古文じみた話(読めば直ちに分かるが、個人キャラレベルの展開は猛烈に古文チック)が許容できる人は大いに楽しめるのでは。少なくとも自分は楽しんで読めた。

 

ぼくの地球を守って 1 (白泉社文庫)

ぼくの地球を守って 1 (白泉社文庫)

 

 

 

*1:「普通の」物理プロパーな人は実際の現象や数理的な記述を理解しているし、更に先立って宇宙とかに対する思い入れもあるのでこうした喩えを気軽に使わない印象があるが、自分は一般相対論を十分に理解しているわけでもなければ、宇宙だのに対する思い入れも全くない(むしろ学生時代の経験から、そういうのを臆面もなく出しよる人へのある種の嫌悪感がある)ので、カジュアルな意味で平気で使う。

惑星ソラリス

昨日K'Sシネマで。タルコフスキーの映画を見たことがなかったので良い機会と思って見に行くが、如何せん疲労を溜めた身体で見に行くものではなかった(第一部の途中で寝落ちした。首都高シーンあたりは再び起きてたが)。

それはさておき、こんなにキリスト教色の強い話だったか?などと思ってあとで調べたらやはり結構(原作と)違った様子。そもそも「ソラリスの海」の未知性・意思疎通困難性みたいのが希薄で、妻(象徴としての過去の罪)とどう向き合うか、みたいな話になっているし。しかしそれはそれで(「ソラリス」と思うとあり得ないが、別の話と念じれば)、とか思っていたら最後で結局ソラリスに留まるのかよ、みたいなただの駄目なおじさん話になってしまった。