脳・心・人工知能

数理脳科学・数理工学の第一人者による一般向けの著書。内容は脳科学モデリング(記憶のモデルや学習のモデルなど)部分が多く、人工知能、心の話題は研究の歴史の概説。
文章は平易で分かりやすい。また、数理脳科学や情報幾何にとどまらず、誤差逆伝播法や確率降下学習などニューラルネット機械学習で重要な位置を占める理論についても同様のアイディアを早くから提出していたという指摘には、まるでガウスの伝記を読んでいる気分になる。後は理論屋さんの矜持の素晴らしさ。
ただ本筋とは関係ない専門外の分野で所々での手が滑ったような書きっぷりがやや気になる。
たとえば初っ端の第1章の文章は何だかすごく大きな話から入りながら奥歯に物の挟まったような不自然な表現だし、統計力学が「マクロな物理状態が時間が経つにつれてどう変わっていくか、その力学を解き明かす」とか、誤りとは言わないが何となく物理を勉強した人間ならしない表現の気がする。後は人工知能の説明の部分で、将棋の電王戦での永瀬―Selene戦を取り上げているが、局面自体で優位を築いたうえで角不成を選択したことが抜けているのは説明としてはいまいちだと思う。
物理とか将棋に関して細かい点が気にならない人ならば、大変楽しく読めるおすすめな本といえると思う。