長考力

「長考力」という題名だが、佐藤九段の将棋に対する考え方の語られた本。
専門誌の連載等はじめ、トップ棋士の中でも比較的その考えが語られることの多かった佐藤九段だが、本書ではもう少し一般的な広がりを持つようなトピックについて、将棋の例を通して考えが語られる(ただし、将棋をある程度知っている人が読む方が筆者の言わんとすることがわかりやすい、という書き方をしているという印象はある)、というような組み立てになっている。
例を挙げれば、(将棋の戦法選択における)スペシャリストとジェネラリスト、(経験に基づく人間の把握能力についての)先入観と大局観、(将棋の研究・新手の開発のスタイルとしての)想像派と修正派、など。
将棋の専門誌等では語られそうで語られないような観点も多くて、その意味では(掘り下げは深くないが)意義はゼロではない本の気がする。特に、(プロの代名詞的に語られる)目隠し将棋が、ぼんやりとしか映像が浮かんでいない、というのは意外だったし、横歩取り△2三歩型の▲3六飛が佐藤新手だったこと(羽生ー谷川戦がすぐ思い出されてしまう)とかは初めて知った。
あとは個人的にはやはり5章の創造性と勝ち負け・効率のバランスをどう取っていくか、的なところについての考えあたりが興味深かったか。
人柄が伺われる実直な語り口はいつも通り。