桜に囲まれた女子校を舞台に、春にチェーホフの「櫻の園」を演じることが伝統になっている演劇部に所属する4人の高校生をめぐるオムニバス的な話。
話としてはいずれも、「女性であること」とそれぞれがどう向かい合っていくか、的な作者得意の例のパターン(で正直その安易さに辟易させられる部分もあるの)だが、「一つの時代の終わり」の描き方が抜群に上手くて、破壊力が高い。最初の「花冷え」とかは特にそうで、結婚式前日の姉の話とそれに中野さんが涙するところとか。
しかし、やはり一番印象深いのは、「花酔い」からの「花嵐」のラストでの告白への一連の流れか。志水さんの感情の揺れ動きから自己の心の傷の認識への至り、そしてそうしたものを全て認めたうえで倉田さんへ思いを向けていく(それは未だ、ともすれば独りよがりになってしまうような不格好さや未熟さを孕むものだが)、本当に上手くてかなりぐらっとくる。これに比べれば、上述の「花冷え」などは自分のことで手一杯というフェイズなのがよく分かる。
全て良し、というわけではないが(上述の安易さとか、「櫻の園」のモチーフをあまり活かしてないのでは、とか)かなり良い作品と思った。
- 作者: 吉田秋生
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 1994/12
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 111回
- この商品を含むブログ (88件) を見る