原子力政策研究会100時間の極秘音源 メルトダウンへの道

これは素晴らしい本。知らないことばかりで、非常に興味深く読んだ。
特に第一部では、国内の原子力黎明期へ向けた歴史について、敗戦後の戦犯たちの政界復帰へ向けた一計にはじまり、第五福竜丸などの事故を受けてのアメリカの原子力平和利用政策とそれを背景とした強烈なワンマンのキャラクターを持つ正力松太郎による原子力の異様なプッシュが、国内への原子力導入をもたらす経緯や、金になると見るや素晴らしく迅速に動き出す商社とメーカー、当初は傍観気味だった電力十社が国営の電源開発への対抗意識からの軽水炉導入、などの動きが録音音源とインタビューから実に鮮やかに語られる。やはり、中身の分からないものでも強力なプッシュがあれば動き出すことは間違いないが、つけを払うのは大体その後の人(そしてプッシュした当人は大体おさらばしている)、というのがよく分かる。
また、過去に湯川・朝永はじめそれらの時代の物理学者の本では彼らはなぜかくも「原子力」の利用についてこれ程色々発言しているのか、と気になっていた(Einsteinの宣言などあれど、冷静に見れば工学利用については全く専門外のはずなので)が、今回この本を読んで、そもそも日本に専門家皆無の中、政治的な動きも手伝って(原子核素粒子の専門家の)ビッグネームが駆り出されてきた、という経緯があったということを認識した。
後はやはり、第三部。第一部の語りでは一見冷静にすら見えた、(現在の文科省の)元役人たちの核燃料サイクルへの狂気とすら言える入れ込みが見え、その異様さが顕わになる(「プロジェクト不滅の法則」など、当事者としてはなかなか言えた台詞ではないと思うのだが…)部分は、物語として見ても(それが好ましいかどうかはさておいて)抜群の効果をもたらしており、本としての面白さに寄与していると思う。