ストーナー

20世紀初頭のある大学教師の人生を、静かに沁み入るような文体で描いた物語。以下大筋を書いているので、ネタバレ(と言ってもそれが大幅に本の魅力を損なう系の本ではないと思うが)注意。













アメリカの貧しい農家出身の主人公が(当時貧しい農家出身の人としては珍しいだろう)大学の農学部へ行き、農学を修めてそこで英文学と運命的な出会いをして専門を文学へ大転換する辺りまでは良かったが、結婚した辺りから雲行きが怪しくなり、常時ヒステリー気味の妻の仕打ち(子供に大量に習い事させて人形状態にするとか、勝手に新任教師の身の丈に合わない庭付きの家を買ってくるとか、主人公のものを勝手に動かして部屋を空けるとか、お話にしてもこの類の方向性は割と読んでいてきつい)で読んでいる方も精神的に削られる展開へ。その後も、大学での教員としての仕事に脂が乗ってきた時期にいわゆる「実力はないが意識だけ無駄に高い」系のアレ系な学生をスルーできずにまともに「指導」したせいで、それにやたら目をかけてた教員と敵対して半ば干されるとか、四十を優に超えて学生と不倫して、それをネタに敵対した教員に強請られて学生が別のところに飛ばされるとか、娘が異常な家を出たい一心で学生妊娠した(しかも精神的に抑圧されまくっていたせいで感情が半ば死んだような性格になっているため、唐突にそれが明らかになる)上に、戦争でその夫が亡くなって未亡人、酒浸りの日々へ、とかとんでもない暗鬱展開。全く心穏やかに読める本ではない(なんか世の感想だと、すごく感動して泣ける本、みたいな扱いだが、首を捻らざるを得ない)。
で、まあ更に嫌なのが、この本の主人公、自分でも意識しているようだが色々娑婆で生きるのには向いていない系の人で、密室で本だけ読んでるのが理想みたいな感じなのだが、日頃は意思疎通を億劫がっていながら、いざそういう段になると極めて直截的な感情の伝え方で周囲と相互作用しにいくものだから、それがとんでもなく面倒臭い方向に話を運ぶといったパターンだらけな所。(個人的に他人事でないというのもあって)えらく読んでいて気が滅入る。
最後も、自身の(特に特別ということもない)人生に良し、と言って此の世を去る、みたいな感じになってはいるが、何だかなあ、感がとても残る。そういった諸々も含めて当人の終わりよければ、ということなのかもしれないが。
まあ今回これを読んで、やはり性向的に向いていない人が下手に家族だの子供だのを設けられるとか思うと悲劇が生じるということがわかったので、改めて静かに生きねば、という思いを強くした。

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