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どうして時間は過去から未来へ流れていくのだろう?

昨日は(これがおそらく最後、という)田崎さんの一般向け講演会を聞くべく、のこのこ目白は学習院まで行ってきた(一般向き講演会などで聞きかじりをする暇があったら黙って勉強せい、というもっともな指摘はさておき)。
題材は標題の通りで、なぜミクロな世界の可逆な物理法則からマクロな世界の不可逆性が現れるのか、という話を高校生(〜大学教養)程度の知識を前提にするというものだったが、トークの構成が(今更で本当に申し訳ないが)死ぬほど上手くてかなり感動した。
最初はゆるゆるの冗句から入ってなかなか本題に入らない感じに意図的にローギアにしているのか、と思いきや、「水」と「林檎」の件(これも水の時点では単なるサービスにしか見えなかったのだが)で、「林檎」の例が出てきた途中でその含意に気がついて(全く比喩でなく)鳥肌が立った。
熱力学や統計力学の教科書もそうだと思うが、こうした講義の真の凄さはその射程の広さにあるのかもしれない。異常に明瞭な論旨や説明や、それを支えるような必要十分と思えるような例の選択、話のステップの上げ方の適切さといったものと、随所に散りばめられた、(一度勉強している人が聞いた際にも新たな知見が得られるような)一流の「視点」との両立という、非常に高難度なことを実現している点は、もはやある種の芸といった趣さえある。
講義の後も、個人的に気になる点(具体的に書けば、(たとえば講義で上がった例で言えば)「Ehrenfestの壺」で、球の数と「平衡状態」へ緩和するまでの時間の関係がわからないか、ということ)が出てきて、とても刺激的な講義だった。(しかし教養の「現代物理学」の時はこれほどのものに対して反応できていなかったと思うと、自らのぼんやりさ加減が悲しい。)
という訳で、帰って早速教養に戻った気分で「壺」の実験をする。まずは講義で見た絵の再現からさくっと。やる気ついでに、今迄横目で見つつ触れずに来たPythonとPylabを入れて、数値実験と描画をやる。
セットアップとしては非常にシンプルで、壺が二つあって、片方の壺にN個球が入っている(球は1〜Nまで付番されている)。各ステップごとにランダムに1〜Nまでの番号を一つ選び、それと同じ番号のついた球を取り出して、もう片方の壺に移す。これを続けると、最初に球の入っていた壺の球の総数はどうなるか、という話。沢山ステップ数を積めば最終的には壺中の球の数の分布は二項分布に近づく。
実際に数値実験で、玉の数を振ってステップとともに壺の中の球が一定の数(=二項分布の期待値。今の場合ならN/2)に近づく結果を得たのが下図。Nの増加とともに、「平衡状態」に徐々に緩和して行く様子が見えて楽しい(Nを更に増やすともっと明瞭になる)。

引き続き分布が平衡分布に近づく「速さ」とかを調べて、なにか規則が出れば面白い(すぐには分からなかったので数値実験に走ってしまったが、最も簡単なこの「壺」のセットアップなら解析的に出せるかもしれない)、などと妄想中(何だか、刺激の元とやっていることの程度の乖離が大きくてさみしいが、まあこれも実力ということで)。