漫画編集者

インタビュー形式(+担当作家からの編集者漫画)による、漫画編集者とは一体どのような仕事なのか、に迫る本。インタビュアの問いは露わに書かれない、という形が独特か。
インタビュイー5人はいずれも現場の人(最後の江上英樹氏の部分は「IKKI」休刊直後なので厳密には違うが)だが、担当作家との作品の作り方のスタイルやスタンスなど各人全く異なっており、実に面白い。
5人のインタビューの並べ方も結構良く出来ていて、最初の猪飼氏の、感想の雑誌への投稿が高じて、といった形が反映されたようにみえる、漫画家への思いが溢れたようなインタビューにはじまって、三浦氏の講談社の「マガジン」漫画的世界観が顕現したような雰囲気と、過去の超メジャーヒット作の中にある「上手さ」の端的な表現と連載を作る中での数々のアイディア、といった二面的な要素が混在したインタビューで、企業に属しての編集の「仕事」的な点や、(漫画の知識に裏打ちされての)編集の戦略的な面とを見せ、続けて自身の作る雑誌が休刊になったことを転機に、サービス業としての漫画と売れることの必要を強く意識するようになったといい、編集者自身が積極的に広報することまで含めてアグレッシブに動くようになったという(漫画のエピソードのような)山内氏のインタビューで「ビジネスとしての編集」の面を強く見せるが、熊氏のインタビューでは、一対一で作家とタッグを組んで、徹底的にニッチを突いていくといった(大昔のスポ根すら思わせる)形態を見せる、という組み立ては(単純な時系列順にも見えるのだが)、他の順番だとどうもアクが強く見えすぎたり、いろいろマイナス点もありそうな中で非常に良い流れだったのでないか。
個人的に印象深かったのはやはり最後の江上氏のインタビューで、

僕が素晴らしいと思っている漫画家って、自分の疑問を問いてくれそうな人たちでもあるんですよね。なにか、自分が深いところで引っかかってるものに解答らしきものを出してくれそうだ、という。(中略)一人一人の作家は自分の大事なものを一生かけて追って、解答の近くまでは行くけれども、完全に見つけたっていうのはむずかしい。それでいいと思うんですよね。
むしろ、そういうものだからこそ、古典文学なんかも含めて、さまざまなフィクションの形で、そのつど悩んでいる人たちに向けて何世紀も語られ続けてきたんだ、と考えています。
(中略)きっかけは個人的であっても、すごく深く掘り進めていけば地球の裏側にも出るというか、どこともつながるんじゃないか。だから、どの作品も自分と無関係ではないと思っています。

という件で、これを読めたのは本当に良かった。
しかし、本としては、最後にいきなりインタビュー側が顔を出して延々と喋るというのはどうにも美しくなかったのでないだろうか。そこを除けば良い本と思う。

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