人工知能は人間を超えるか

人工知能研究に関して、なぜ今注目を集めているのか、ブレークスルーは何だったのか、将来はどうなるのか、といった疑問に対して、歴史的観点と技術観点から概観してみせた非常に分かりやすい解説書。
人工知能研究の歴史を大まかに第一次(定められたルールのもとで推論と探索を行うことで問題を解決するというもの。1960年代に大きなブームが到来するも現実的な複雑な問題が解けずに下火に。)、第二次(専門的な知識を予め導入した上で推論することで、専門的な判断を下せるようになるというもの。医療や生産分野などで進められるが、一方で適切な判断のためには、人間が日常的に利用している「暗黙の了解」に関しても入力する必要があり膨大な量が必要、知識の相互関連の整理の必要などの困難があり下火に。しかし同時にこれらの根本的な問題から、知識の表現や記述に関するオントロジーなどの研究分野が発生した。)、機械学習(入力に対して適切な「分類」を出力するためのパラメータを学習によって決定するという枠組み。しかし学習に必要な特徴量は人間が選択する必要がある)、Deep learning(自己符号化を利用して入出力を一致させることで、ニューラルネットを複層にした時に誤差が伝播しない問題を回避して、特徴量自体の学習を可能にした枠組み)、という分類をすることで俯瞰する。Deep learningがいかに特筆すべき技術かということを熱をもって述べながら、一方でこれまでの浮き沈みの轍を踏まぬように、冷静に将来の進展の予測を行う姿には、フェアな姿勢を見る一方で現在の研究者としての難しい立場も見えてしまったり。
ともあれ、非常に面白い本だった。もう少し理論の基本的な所から解説のある教科書もあれば是非読みたい。

以下はメモ。
・Deep learningのアイディアが(実空間)くりこみ群に非常によく似ているようにみえる。以下の論文もあるらしいので、(読めるようになれば)読んでみたいところではある。http://arxiv.org/abs/1410.3831

・教師あり学習と教師なし学習について。判定基準と入力データを切り離したものが教師なし学習(なので単純な枠組みだけならこちらのほうが一般的で、用途やスピード等で使い分けがなされる?)という理解で良いのか。
・フレーム問題のよく知られた例を考案したのがダニエル・デネットであることを(今更)初めて認識した。
・翻訳が今後人工知能が入る領域のステージとして予想より高い(時間的に先)の部分にあった。(学びたい気持ちにならない)他言語を学ばなくて事足りる世界がおもったより遠くて残念。まあこれも程度と精度をどこまで求めるかということなのだろうが。