ユリイカ 11月号

森博嗣特集。ということで、のこのこ釣られて読む(今でこそ新著をフォローしなくなったものの、小学生の時に同級生から借りて読んで以来の数年で、良くも悪くもきわめて大きな影響を受けたことは間違いない)。
特筆すべきは、やはり本人のメールインタビューと、清涼院流水杉江松恋による対談か。前者は(本の再読の件とか細かい所こそ昔の話と異なったりして整合性が怪しかったりするが)、昔からの一貫した、きわめてロバストな思考の方向性にはやはり驚かされる。今回インタビューを読んで、(自分の贔屓目を含めたとしても)改めて相当明晰な部類の解答だと思った(一方で質問はあまり練れていない印象。メールというゆっくり考えられる形式を活かしているとは言い難い)。
個人的に今回興味を惹かれたのは、映像orientedなものの考え方をするのだなあ、という点(これは以前に読んだ本にも述べられてたかもしれないが)と、思考の対象が頻繁にあちこちに行く(なので単純な時間換算ではそれ程長時間一つのことを考え続けているわけではないということ)と明言されていること(そしてそれを自身の体力の問題に起因すると考えていること)、俯瞰的な思考の仕方についても幼少からの遠視に起因するという考えを披露していること、など。特に後の二つは初めて見た気がしている。
質問に対する考え方(真剣に問題の解決を欲しているのか、自己の誇示にすぎないものなのか)、教育に対する考え方(制度の影響よりも個人ベースでの、背中を見て育つ、的な考え方の重視)、ものを創ることへの想い、と言った辺りは最初期(例えば最初期の日記の「毎日は笑わない工学博士たち」あたりから)から一貫していて、今再び読んでも頷かされるところが多い(今回もう一度「毎日は笑わない工学博士たち」読みなおしたが、特に96年度分は非常にドライで面白いし、97年辺りからはともすればサービス過多な芸風が定まってくるけれどそれでも5月9日の一日の予定とか、12月9日とか十分面白い)。
これらもそうだが、「プロ」的な思考(サービスを提供して、その対価を貰うという点を強く意識して方向や戦略を考えている点)と、理想主義的とでも言うべき高い目標を志向するという二点が非常に強く意識されている点に今回強い印象を受けた(小さいころはどちらかというと思考への強靭な信頼、のようなものに感銘を受けたが)。
対談は、清涼院御大の森愛が炸裂していて微笑ましい。
残りの評論は(全てを舐めるように読んだわけではないが)全体的に質的に疑問符がつく印象(ここから新しい知見が提供された、それにより感銘を覚えた、などの経験がほぼなかった)。特に後ろの方は耐え難い。

毎日は笑わない工学博士たち (I say essay everyday)

毎日は笑わない工学博士たち (I say essay everyday)