電力改革 エネルギー政策の歴史的大転換

急遽必要に駆られたので慌てて読む。
中身は経営史が専門で、特に電力会社の経営史を扱ってきた筆者が、電力会社の歴史を辿りながら東日本大震災を受けての「リアルでポシティブな原発のたたみ方」、更に今後の電力の産業体制について提言を行うという本。
現在の悪い意味で役所的、ともいうべき体質は決して古くからそうだったのではなく、むしろ戦前は(大規模水力発電の躍進を背景とした)卸売事業者と小売事業者といった民営の事業者感での激しい市場争いがあったことや、戦後の高度経済成長期にも国との電力国営ー民営を巡る争いや、地域の九電力事業者間の(市場は独占的であり、業績れべるであるものの)争いが見られたことなど、かなり活発な動きが見られたこと、その後の石油危機の反動から電力事業者の原子力導入が強まり、土地の確保等のために国に依存する、という形態が生まれたこと、日本、世界での原子力発電所の事故を受けてのペースダウン、2000年以降震災以前の温暖化対策エネルギーセキュリティの重視を受けての原子力推進の高まりなどが資料とともに分析される。
それを踏まえて、原子力に関しては現状の国策民営では管理を十分に行うことが難しいこと(中長期的には国営の可能性も考えるべきであること)、立地自治体の地位向上などが必要であること、また産業体制に関しては電力自由化を行い国策民営の形から市場競争の形式へ移行することが、電力事業者が再度民営努力を開始し活力を取り戻すことにつながり、それによって電力事業者が強靭な企業となることがひいてはエネルギーセキュリティにもつながるのである、と主張する。
半官半民の電力事業者による集中型の供給、という一見当たり前に思えてしまう形態に関して考古学的な分析を行うことで、実際はそうではなかったということを明らかにし、したがってそれらを必ずしも自明なものとして考えるべきではない、という考えに立って立論を行っていくという考え方の部分を個人的には興味深く読んだ。