機械との競争

アメリカでの景気の回復と裏腹に雇用が増加しない理由が、景気回復やイノベーションの不十分さによるものではなく、技術の急速な発展によって従来人間が行ってきた仕事が機械に代替されるようになって雇用が失われているためであると論じる本。
ただ全体的に主張を裏付けるための根拠が、機械の進歩が著しい例(例えばチェスでコンピュータが最強の人間に勝った例とか、自動運転とかIBMのワトソンとか)とか経済側の事実(非農業部門の雇用の伸びとか学歴と賃金の相関とか)が提示されるのみで、機械の進歩とその経済や雇用への影響を真剣に検討しているという雰囲気には大分乏しい(例えば現状において機械との競争の影響が割合としてどの程度と予想されるのかとかは全然わからない)と感じる。あとムーアの法則が際限なく続くみたいに書いて、指数関数の恐ろしさとか謳ってるけど、本当なのか、みたいな気分になる。
後は、著者らの提言として、人間の個別アイディアを組み合わせる能力は機械には出来ない特徴的な能力だとか芸術的能力やソフトスキルは人間特有の能力とか言ってるがこのへんも正直疑わしい。個別アイディアの組み合わせを大量に試して、その中から数少ない当たりを見つけることとかコンピュータの得意技としか思えない(なので本当に質的に異なるものを生み出すにはごく少数の並外れた人に膨大な時間と資本を投資するしかないと思う)し、後者も状況を限定した時に人間と同様のパフォーマンスを出すことは全く可能だと思われる。その意味では教育の重要性、といった時にも、それが動機付けとかモチベーションを上げるとかの要素が人間特有のものだから、という考え方は間違いなのだろうなと思う。単純に行う側に未整備な課題が多い上に、機械の活用方法の習得がいっそう重要になるから注力すべき領域であると考えるべきでは。
機械との競争ではなく機械を適切に用いることでより良い結果を得ることが出来ると考えるべき、(Advanced chessを引き合いに出して)という主張を見て、人間固有の「知性」の領域が変化している(なので従来の「知的」さが価値を担保してくれるわけではない)という事実の認識こそ最重要かと(電王戦タッグマッチを見つつ)思ったり。

機械との競争

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