地図と領土

ある一人の人間(しばしば社会的成功を収めながら孤独のために満たされない)の生涯を描きながら、現代社会を冷ややかに記述する、という(例によって)作者得意の手法だが、今回は「世界を理解する」ことを求める孤独な画家を主人公に、現代のアートワールドの空虚さや、加速する消費社会においてゆっくりと衰退しつつある「仕事」(そこには小説家も含まれる)が題材として取り上げられる。
なんだが、何というか、どの話もなんとなくどこかで見たことがあるような感じで、いまいち乗れない。書評とか見ると作者が出てきて惨殺されてびっくり仰天!みたいなことが書いてあったりするが、別になあ、という感じである(首がないぐらいで大層な動機とか前代未聞のトリックとかが出てきてその死の固有性を保証してくれるわけではあるまいに、というのはミステリで散々あった話だと思ったのだが)。最後も例によって遠くの視点から俯瞰してみせる格好だが、これも上手く言ってるのか良く分からん。サービスとしてやってくれてる節さえある。
穏やかになったのは良いけれど、思想として突き抜けたものはない印象。

地図と領土 (単行本)

地図と領土 (単行本)