ロングロングケーキ

再読。以前読んだ時にはあまり意識しなかったが、作者得意の突飛な設定の世界を日常と等置したり(ロングロングケーキ)、子供の成長という時間経過の形で日常に接続してみせたり(庭はみどり川はブルー)ということを積極的に行っており、それまでの疎外された主人公のギリギリ感を厳しく描いておいて、あまりにどうしようもないので最後に腕力的に幸せな方向へ持っていくという流れの、個人の内面がメインの物語に比べて、より巧みな作りになると共に、疎外された人の世界の捉え方を通じて、より一般的な問いへと転換していくという方向への展開が強く意識されているという印象を受けた。
個別の話としては、「ロングロングケーキ」が変態的手法によるド直球で素晴らしい。「秋日子かく語りき」は以前はさらっと読んでピンと来ないとか思っていたが、地味に技巧的。
前は気付かなかったが、竜子は結局フォークダンスを踊って青春の思い残しを清算する前に時間切れになっており、一週間の猶予で得られたのはベンジャミンを通じた夫からの思いの確認(この件も応答を確かめるために返却を求めてもらうために盗みを働く、というのがらしさ満点だが)という、亡くなる前の日々の帰結。
転生と来世への夢(とそれによる現世の希薄化)に対して異を唱えるラストの薬子の台詞を支えるのがこの、竜子が一週間で得られたものは生前の行動に対するレスポンスであり、思い残しの清算そのものではなかったという事実なわけだが、薬子自身は竜子の憑依を必ずしも信じていないため、この事実を認識して上述の台詞を言ったわけではなく、むしろ冷静さとある種の楽観(秋日子とのこれからへの希望や、現世での多くの時間を保有していることに起因すると思うが)からそう考えているのだが、読み手の我々は、竜子の人生とそれへの夫からの応答を見ているおかげで、薬子のこれからに対しても(これまでがある種一方的な関係だった)希望を持てるようになっている、という辺りとか。これまでもある種の無垢とでも言うべき、「遠いものへの(無償の)愛」みたいのが期せずして報われる、みたいのはあったけど、必ずしもそうでなく、もっと不器用なものに対しても希望を匂わせている点が、より広さを持った人間賛歌を思わせる。
という訳でこの辺の作品の個人的評価も今回大いに上昇した。
(どうでも良いが、「庭はみどり川はブルー」の染子が高校時代えらく鬱々としてたが、急に元気になったのは主人公が急死したことに起因するのだろうか。だとすると健気を通り越してかなりおっかない。)

大島弓子選集 (第11巻)  ロングロングケーキ

大島弓子選集 (第11巻)  ロングロングケーキ