覆す力

森内竜王・名人が自身の将棋人生を振り返りながら、特に羽生善治という将棋の歴史の中でも最強クラスの人物を同世代に持ち、その高い壁と競い合うなかで、どのようなことを考え目指してきたのかについて書いた本。副題をつけるなら、「羽生さんと私」としか言い様がないほどに、全編通じて羽生三冠への畏敬の念が溢れている。一方で、羽生三冠という圧倒的存在に対して、自分の強みは何なのかということやそれを活かしていく術について考えた軌跡が著者らしい丁寧さで書かれていてなるほどと思わされる。
その他のところでも、カレーの話とか、不調の時に三割名人と呼ばれていた話とかまで言及している所など、著者の人柄が垣間見える感じで実に良い(個人的には、こうしたほっこり系の話の一方で、奨励会の時のジャンケンで食事代支払いを決める、というエピソードで、著者は各人のジャンケンの手の傾向を見ていたので殆ど負けなかった。負ける人はだいたい同じだった、というのが気に入っていたり。やはり森内竜王・名人のらしさはこの頃から現れていたのだなあとしみじみ思った)。強いて言えば、著者は自身の実績の所をあまりにも淡々と書いて、他の人の実績の所を褒めまくるため、あまり将棋のことを知らない人は著者が超遅咲き型、みたいな誤解をするのではないか、という要らない心配をしてしまった。島九段の解説とかを持ってきてフォローしてもらえばしちょうど良さそうだが)。

覆す力 (小学館新書)

覆す力 (小学館新書)