夜と霧

心理学者である著者が、強制収容所での実体験を下敷きに、限界的な状況に置かれた中で人が生に見出すものや決して譲らぬものに関して考察した本。
古本屋で購入した旧版を読んだので新版は違うのかもしれないが、本編の前後には出版者が第二次世界大戦中の強制収容所の状況に関して、解説と写真資料を載せているのだが、これは著者の「この叙述は、あの身の毛のよだつ戦慄―それはすでに多くの人によって描かれている―を述べるのを目的とせず、むしろ囚人の多くの細やかな苦悩を、還元すれば、強制収容所において、日々の生活が平均的な囚人の心にどんなに反映したか、という問題を取扱うのである」、という趣旨と必ずしも一致しないものであり、その辺はどうなんだ、という気がした。
内容についてだが、6章までは実体験に沿った形で話が進むのだが、個人的には7章以降が興味深かった。特に人に最後に残された内的自由の件や、目標や希望を取り払われた「期限なき仮りの状態」と時間の感覚の崩壊、そして過去への回顧に生きるようになる過程についてなど。後は有名な「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである」の件など(「太っちょのオバサマ」にかなり通じるものを感じる)。

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録