喜嶋先生の静かな世界

元気の出ない時に読んだ。
内容は「まどろみ消去」の短編(中学生になるかならないかで読んだのが懐かしい。少なからぬ影響を受けたと思う)に加筆したもの。足された点は大学院の中の人の様子とかの説明的な部分(この辺は適切に書かれている印象で、全く知らない人が雰囲気を知るのには非常に良いと思う)なので、本質は短編のほうで尽きていると思う。
ただ加筆によってより明らかになったと思うのは、やはり少々きれいに書きすぎ、という点。研究の競争的な部分は殆ど書かれていない(ので「静かな世界」に見える)し、研究している人は皆研究に対して誠実なわけではないので(まあその辺は他講座の学生の発表に喜嶋先生が突っ込みを入れる件とかにも見えるが)、研究ができなくなってから仕方なしによっこいせ、と他のことに取り組み始めるわけではない。
短編同様のラストはなかなか来るものがあるが(大学院を経たというのが大きい理由と思うが)、全体としては(四季あたりから手つかずなので)「森も丸くなったものだなあ」という感想に尽きるだろうか(そもそも昔の短編を加筆して出す、という行為自体がそうだが)。

喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)

喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)