気候変動を理学する

地球の気候の変化について着実に考えようという姿勢のもと、一般向けに行われたサイエンス・カフェでの講義録。
地球気候を様々な要素が競合する複雑なシステムとして考え、その競合がもたらす複数の安定パターンの間の移行を、フィードバック効果で大きく増幅された揺動がもたらす(したがって移行は一次転移的なものとなりヒステリシスなども見せる)、という描像がクリアに語られ、前提知識がなくとも非常に読みやすい。
全体の構成も、シンプルな地表‐大気‐太陽モデルからはじめて、全球凍結に触れ、まず上述のシステムの考え方に触れつつ、気候変化が単純な地球全体での一様な変化としては捉えられず、大気や海洋の循環がもたらす気候の空間的、時間的なパターン変化こそ重要である、という点を深堀りしていく形で非常によく練られていると思う。
聴衆のレベルもかなり高かったりすることも良い刺激を与えており、講義形式の本としてとても完成度の高い本となっていると思う。お薦め。

気候変動を理学する―― 古気候学が変える地球環境観

気候変動を理学する―― 古気候学が変える地球環境観

以下は読んだ時とったメモ。

一日目

主張
(1)地球の気温を決める重要な要素は、
・太陽の明るさ
・大気のCO2の濃度
・地表反射率(アルベド
である。

(2)また地球温度はきわめて複雑なシステムであり、小さい揺動によって安定モードの移り変わりによる大きな変動を見せたり、移り変わりにおいてもヒステリシスなどを見せる。

(1)について
・地表の温度を単純化された太陽‐大気‐地表モデルで考える。
温度は
地表でのエネルギー釣り合い
(地表からの輻射)=(アルベドを考慮した太陽輻射の吸収)+(大気からの輻射)

・大気でのエネルギー釣り合い
(大気内外への輻射)=(地表からの輻射)

という2式から定まるというモデル。

しかし太陽の明るさが時間とともに明るくなっているという事実を考慮すると、このモデルで過去の地表温度を計算した時に地表が凍結してしまう(全球凍結)!
→測定からも実際にあったことが分かった。

(2)について
大気中のCO2濃度が火山活動や光合成石灰岩形成といった要因で変化することで射出率が変化し、結果複数ある気候の安定モード間を移行する、というのが全球凍結とそこからの脱出のメカニズム。複雑なシステムなので、モード移行はジャンプのように起こるし、ヒステリシス的な挙動も見られる。

2日目

氷河時代間氷期氷期の周期的挙動の理解。
(1)ミランコビッチサイクル(公転軌道、地軸の傾き、歳差運動によって日射量の周期的挙動を説明する理論)。

ミランコビッチサイクルで説明できない点
・氷床の増減を理解するには、氷床生成によって反射率が増加するために起こる気温低下というフィードバック効果を考える必要が有る(ミランコビッチサイクルは日射量の分布しか説明しない)。
・北半球・南半球の周期の同調的挙動←大気中CO2の濃度の変化によって伝搬する

3日目

CO2循環システムについて
氷期間氷期サイクルでのCO2増加を説明するには海洋でのCO2放出吸収プロセスを理解する必要が有る。

CO2濃度を決める要素
(1) 炭酸塩ポンプ: カルシウムイオンと炭酸イオンから石灰と炭酸生成
(2) アルカリポンプ: (1)の逆反応←これが深層で起こるとCO2が大気に戻らない。
(3) 生物ポンプ: 海洋表層での光合成(有機物生成)+深層での有機物分解
(4) 溶解ポンプ: 水温低下でCO2の溶解量増加

これらのポンプの競合がCO2濃度の変動を決める。

深層水循環パターンの変化で古い時代に生物ポンプで押し込められたCO2が急激に表層へ出てきたのが氷期間氷期間でのCO2濃度変化の大きな要因。

4日目

急激な気候変動(ダンスガードオシュガーサイクル)

ハインリッヒイベント(氷床が融けて動く)との関係
寒冷化→ハインリッヒイベント→深層水循環の停滞というシナリオ

深層水循環のサイクル
深層水循環の停滞→海流が変化し北半球寒冷化→塩分濃度上がって再び沈み込み開始→温暖化→塩分濃度減少
というサイクル

深層水循環サイクルもいくつかの安定モード間の移り変わりと考えられる。

氷床の融けるメカニズム
氷床上部で温度一定という条件下で、厚みが増していくと(温度勾配はモデルで与えられてるので)下部の温度が融点に達して融ける(自励振動システム)。

5日目
太陽活動は周期的。明るさの強さの変化自体は温度変化を説明するのに十分でないが、
太陽活動は大気循環と相関が強く、明るさのの変化は気候の空間パターンに大きく影響を与ええる。
高緯度地域では北極振動に似たパターンが、低緯度地域ではハドレー循環の強まりの結果ラニーニャ的になる。

明るさ変化が気候変化を生む理由(仮説)
(1)赤道域の加熱による貿易風の強まりが温度差を生む。
(2)明るさ変化に伴う紫外線強さの変化がオゾンをより生み、温室効果が促進される(明るさ変化の際に紫外線領域のスペクトルは大きく変化していることを背景に)。
(3)宇宙線が雲を作る

太陽活動は温暖化の1,2割に寄与(CO2は7,8割)。