江戸川乱歩

素晴らしすぎる。誇張抜きで傑作しかない。どの話も悉く自分のストライクゾーンど真ん中で、夢中で読んだ。「孤島の鬼」とか「D坂の殺人事件」だけ読んで、ぴんと来ないとか抜かしていた自分の愚かしさよ。
全体通じてやはり、ふとした妄想というか出来心が自分の中だけでどんどん肥大化していって、それがやがて周りをも飲み込んでいき、得も言われぬ妖しい世界が創り出されていく、というのの見事さに尽きる。「化ける」とか「覗く」とか、もっと言えばちょっとした思いつきで誰かを驚かしてやろう、出しぬいてやろうという思い、そしてそうしたことへの憧れというのはきわめて普遍的かつ根源的なものだと思うが、そうしたものを昇華させてこのような形にできるということこそが「物語」を書くことなのだなあ、と改めて思った。

肝心の中身に関しては上述の通り全て良かったのだが、特に気に入ったのは、「白昼夢」(初っ端からスマッシュヒット)、「心理試験」(やはり探偵小説は見せ方が全てと思わされる)、「屋根裏の散歩者」(地味にメタっぽくて良い)、「押絵と旅する男」(白眉)。

江戸川乱歩  (ちくま日本文学 7)

江戸川乱歩 (ちくま日本文学 7)